ぱらりぱらり、と滴り墜ちるおとがした。
「……こんなに良い天気なのに」
弾ける音が、開け放たれた窓から静かに流れている。
其れは何処となく湿り気を連想させながらも、音が流れ込む窓からは柔らかい陽が射している。
そちらに目を寄越す。
庇から垂れて一瞬だけ視界を通り過ぎる無数の雨粒の様子が、四角く切り取られて壁に掲げられていた。
「イヅルは雨は嫌いか?」
飽くことを忘れたように降り続ける雨に、物惜しそうな目を向ける子に、問う。
窓枠に収まっている空は蒼く、其れだけを見ればまるで精巧な絵のようだ。
そこでは白々しいまでの蒼さを湛えた空が世界を見下ろしている。
頭上に広がり、何処までも蒼く、蒼く、ひたすらに蒼く在る。
其れにも関わらず雨が滴っている様は、快晴と云うべき空に文字通りひどく水を差しているに違いない。
しとしとと空から糸を引いては、地面で弾けて吸われて消える雨。
世界は暴力的なまでに晴れ渡っているのだから。
ぱらりぱらり、
滴り墜ちるおとは、重なり合い絡み合って、犇めくこえに変わる。
懐かしくもひどく疎ましい其れは、静かにボクに語りかけるのだ。
同胞が啼いている。
くつくつと嗤い、蔑み、弄びながら、何処で同胞らが吠えている。
揶揄う。
蔑む。
憐れむ。
嘲笑う。
同胞のこえが聞こえるのだ。
「いえ、風流なものですし、雨は好ましいと」
聞こえるのだ。
ボクを急かすこえが。
喰ろうてしまえ、
攫ろうてしまえ、
娶うてしまえ、
早う早う、
取り逃がして仕舞わぬ内に、と。
ざわついている。
ざらついている。
嗚呼、
なんて退屈で鬱陶しい。
「けれど、ただ」
「……ただ?」
全く以て下らない。
鼻で笑った。
取り逃がすことも取り零すこともありはしない。
だって既にお前は、ひとつ余さずボクのもの。
ボクがお前を喰らうのだ。
ボクがお前を攫うのだ。
ボクがお前を娶るのだ。
他の誰でもないボクだけだ。
「……ただ、こんなにも晴れているのに、勿体無い気がしたのです」
こんな日はひどく水を差されてしまう。
ぱらりぱらりと、同胞らのこえがざわついている。
何処までも喧しくうざったいと思う。
「せやねぇ。イヅル、窓、閉めて。喧しくて叶わん」
「喧しい、ですか?」
「ぱちゃぱちゃざわざわ煩いねん」
「嗚呼、雨音でしたか」
「あんなんらのこえより、イヅルのこえの方がええ」
「……光栄です」
「うん、もっと聞かせて」
ほら、この子はもう逃げることも思い付かない程にボクに囚われている。
………………
『狐の嫁入り』=天気雨の別称。
市丸人外設定。
多分、山とかに奉られてる妖怪的な存在だと思われます。無論九尾とかそんな。
死神社会に紛れ込んでいる感じですね。
なんだかんだで。
要するに、『逃げられねー内に早く嫁に貰っちゃいなさい』と親類に小言言われて、『喧しい余計な御世話やわ!』って反発する市丸の話です(^p^)
嫁入りと言うよりは嫁取り。