「よお、似合うよ」

彼は愉悦の目を此方に向けた。
彼が飾った花が、僕の横で素知らぬ振りをするようにして揺れる。
淡い色が静かに揺れる。
まるで、己の姿に刻まれた言葉の意味を知らないとでも云うように。
花弁同士の重なる、よそよそしく、違和感を絡めた音が鼓膜を擦った。
乾いている。
白を切るようなその音は、何処までも耳障りだった。

かさ、かさ、かさり、

呼吸をする度、
脈動する度、
歯を食い縛る度、
瞳を瞬く度、
生体反応を示す度、
耳に障る音。
ざらつく音が耳の奥から、脳を直接撫で上げる。
何もかもが不快に感じた。
揺れる其れも、目の前のおとこも、白々しいと云う点では酷似しているのだから。
知らない訳では無いだろうに。
このおとこはよくも似合うだなどと口にする。

「綺麗やで、イヅル」

裂けんばかりに口を吊り上げて、微笑むおとこに云う。

「あなたは、僕にどうして欲しいのです」

「其れ、きれいやろ?」

「ええ、疎ましいほどに」

「きれいなモンや。綺麗なイヅルに似合うと思うた」

「僕は美徳なぞ何一つ持ち合わせておりませんよ」

「ううん。イヅルは綺麗。何より綺麗。世界で一番綺麗」

「だから此れを?」

「うん」

嘘。
僕が美しいなんて嘘。
美しいから飾っただなんて嘘。
美しいものを純粋に飾り立てるなんて彼の趣味じゃあ無い。
彼が好むのはもっと狡猾で貪欲で単純な事だ。
彼が本当にそうしたかったならば、花はきっとあの眩い黄金色の彼女を飾るだろう。
此の花は美しい。
けれど彼女には似合わない。
だから僕を飾った。
彼がしたかったのは花を飾り付ける事じゃない。

「……貴方は、此の花を僕に飾る意味をお持ちで?」

掠れた音は耳障りで、僕の神経をささくれ立たせる。
僕のものとよく似た淡い色が、寂しさを訴えるように鳴り続ける。
思わず彼の袖を掴んだ。
生じた風に攫われた花は、耳元から抜けてふわりと宙に取り残された。
僕は其れを構わなかった。
驚いたことに彼も、気にしていなかった。

「嗚呼、其れや」

誰の目にも止まらずに、花はゆっくりとたゆたって、下降していく。

「怖くて仕方がないって顔」

落ちる花はくるりくるりと回転と軌道を描いた。
床に近付けば、陰を落とした。

「よお似とる。よお似合うとる」

「隊長、」

かさり、

小さく小さく耳障りな音を立てて、床に落ちた花。
細かな花弁が身震いするように揺れて、幾枚かは無惨に散って、床に撒かれた。
其の無様さも、淡色も、床に投げかけた陰影も、哀れささえも全てが僕を映したよう。
きっといずれ、僕は哀しんで、嘆き、淋しく、其れに耐えるのだろう。
だから其の花は、ひどく僕によく似てしまう。
盛りと散り、無惨に晒す其の姿は、正しく絶望的。
また、僕の姿も其れなのだ。

「よお、似合う」

緩く笑う。
彼は愛おしげに僕を抱き寄せて、何も飾られていない僕に、そんな戯れ言を囁く。
くだらない、と目を細めて僕はその浅ましさのまま微笑んだ。

「貴方は花ではなく、其の意味で僕を飾りたかったのでしょう?」

肯定も否定もせずに黙って嗤うおとこの願いが、彼の花。
足元で乾いた不快な音が、ひとつ、転がる。

………
金盞花のお話。
てか、色んな所でよく言うけど「絶望」ってイヅたんに似合いすぎる。
本誌でも心なしか絶望要因に思えるのは和一だけですか?

あと金盞花の花言葉の中で「恋人を待つ」みたいなのあるらしいですよ。
ネガな雰囲気とか色々とイヅル的な金盞花。

 

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