・出血表現有
・人体欠損表現有
・暴力表現有
・要するにバイオレンスにグロいです。
 
 
 
 
 
 
 
 

今の僕はなんて惨めで憐れでみっともないのだろう。
競り上がる一塊の血を畳に吐き出しながら、心底そう思った。
足蹴にされた腹が未だに鈍痛を孕んでいて、身体を丸めて呻くと、舌に鉄の味が広がる。
不味いと思ったけれど、顔を顰めるのも億劫な程、僕は疲弊していた。
這い着くばって、喘いで、嬲られて。
そうして、まるで芋虫のような醜態を曝している。
芋虫など他者の面白半分の意識で、踏み潰されるのがお似合いだ。
そう、まさしく、それに相違無い。
のろのろと緩慢に上を見上げる。
擡げた頭の先で、とてもとても×××そうなかおをしたあのひとが僕を見下ろしている。
握られた脇差しから滴る血が、床に染みを広げる。
 
「ボクな、イヅルの笑ろうた顔好きなんよ。」
 
子供に似た無邪気なこえがそう言って、隊長は僕の右足を優しく掴む。
労るように肢体を撫でる手。
 
「お前の笑顔見るとな、ボク安心できんねん」
 
勢いよく僕の脚が折れた。
聞き慣れてしまった鈍い音がして、どっと吹き出した嫌な汗が全身を濡らした。
引き攣るようなこえを上げて、僕は畳を掻き毟った。
そんな僕を眺めて隊長は、ゆっくりと脇差しを傍らに置き、仰向けの僕に乗り掛かった。
空いた両手が僕に伸ばされる。
 
「うっぅぐ、っ……う」
 
骨の痛みとか、肺と喉への圧迫とかで僕は低く呻いた。
隊長の大きな掌が、僕の首を一回りして包んでいる。
感触を確かめるようにゆるゆると圧迫と弛緩を繰り返しながら、隊長は僕を見下ろす。
そして夢見るような表情で嬉しそうに笑った。
 
「嗚呼……そうや。こんなんやった」
 
骨張った親指が喉仏を撫で、僕は身体を震わす。
 
「お前がな、不思議そうにボクを見るから、こうしてぐぅっ、て強う絞めたんよ」
 
緩急の間をたゆたっていた手が、圧力を掛けた状態で止まった。
途端に動脈が狭まり、溜まっていく血液が首から顔を圧迫する。
 
「したら、お前笑ろてんのや」
 
虫のような吐息を漏らす僕に、隊長は何処までも優しい声音で語る。
 
「なんで笑うん、て聞いたんに、お前はなんも答えんとただ笑ろとる。ただ、それが綺麗だったんよ。雪の夜に落ちた椿みたいに、綺麗やった。せやからボクも嬉しなってな、お前の首絞めながら笑ったんや」
 
彼は語る。
ぐっと僕を絞め上げて、笑った。
 
「そんな夢、見てん」
 
僕を殴った。
畳に強く頭を打ち付けた。
頭蓋骨の中で中身がぶちまけられた気がした。
 
「ぁー……ッ……」
 
なんでこんなことをするのかとか、今更そんなことを疑問に思うことも止めた。
このひとの思うことなど、僕には予想も理解も出来る筈が無いのだから。
彼は何がしたくて、何をどうしたくて、これから何をするのかなんてもう、どうでもいい。
いたぶられた身体には、思考する力しかもう残ってない。
それしか出来ないから、滔々と静かに現状と彼と僕とその他について思索する。
何を置いても先ず、どうせ虫けらと代わり無いのだからそれらしく絶命させて欲しい、と冷静に思った。
だけれど、ただ一ツ確かな事もあって、僕はその惨めさに泣きたくなるのだ。
 
「嗚呼、泣かんでよイヅル。」
 
かれはきっと僕を死なせてはくれない。
それが何より僕を惨めたらしめている。
 
(愛してるなら殺してくれれば良いのに。)
 
また一ツ耳障りな音がして、視界が白く弾けた。
……ふと気付いた時には、畳が黒く変色し臭っていた。
赤みがかかって嫌に生々しくて、強烈な鉄錆の臭いが鼻をついた。
嗚呼、僕はこれを知っている。
どうやら僕の意識が無くなっても、彼の手は止まらなかったらしい。
生臭さにむせ返りながら、少しでもそこから離れようとした。
身体が動かないのは、力が入らないからだと思った。
 
「…………。」
 
じ、と肩口を見た。
頭上で隊長が笑っている。
 
「な、笑ろうて。笑ろてよ、イヅル。」
 
僕の手足を愛おしそうに抱いて、僕に狂えと言うその人に、僕は笑った。
これじゃあ本当に芋虫じゃあないかと、自嘲的に僕は笑った。
 
 
…………
特に意味なんて無い!
壊れた感じと、不釣り合いに冷静なイヅたんに萌えるだけだ!
あと江戸川乱歩が好きなだけ。
 
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