「たいちょっ、おたんじょーびおめでとうございます!どうぞイヅルを受けとって下さいませっ。」

えらい可愛らしい声で朝っぱらからトンデモ発言をぶちかましてくれよった副官兼恋人(希望)に、珍しゅうおめめをぱちぱちしとりますおはようございます市丸ギンです。
え?なん、どゆこと?
寝床に飛び込んできよったイヅルは、それはそれは丁寧に乙女な桃色リボンで包装されとった。(自分でやったんかそれ。)
や、確かに今日は紛れも無くボクの誕生日なんやけど、こないなプレゼント頼んだ覚えは無い。
ちゅうか、『自分をプレゼント(ラッピング済)』やで?
これって受取側に何されてもええですお好きなようになさって下さい、ちゅうあれやろ……!?
ありえへんわ!
ボクの想いびとは、隊長さんのボクが頭下げて頼んだところで、こないな末期のバカップルみたいなこと絶対してくれへん。
なんてったって、ボクが恋しているのはあの吉良イヅルや。
書類仕事がよう出来て、事務向きかと思いきや、虚も紙きれ処理するみたいに淡々と斬ってのける。
そりゃあもう見てる方がなんや空おとろしゅうなるぐらいさばさばと。
性格、言動共に大体そんなやけど、顔かたちは綺麗やし、厳しい態度ン中に垣間見える、優しゅうとこがまた堪らんとボクを始め部下一同にも評判やったりする。
やけどその隊長さんには一切合切容赦が無いのは、一体どういう訳なんやろねぇ。
黙っとればほんまにかいらし別嬪さんやのに、口を開けば辛辣な言葉しか出てこうへんから、ボクの硝子のはぁとはもうびきびきや!(泣)
去年のボクの誕生日なんぞ、

『ああ、はい、へぇ。隊長のお誕生日ですか。ふぅん。では、何処を踏んで差し
上げましょう?』

真顔でヒールと草履と裸足の三択を提示してきよったのには、もう笑うしかなかったなァ。(大体何時もそうだろ、とか云いなや。)
そんでもやっぱりイヅルには色々とときめいてしまうんやから、ボクの愛も深いもんや。人を好きになるんに理由なん要らんのやね。
そんな(ぶろーくん)はーとふるな恋に想い悩む日々を送っとっただけに、今朝のイヅルは衝撃的やった。

「たいちょに喜んでいただけるように、ぼく一生懸命考えました!このりぼんもがんばったんですよ。」

やっぱ自分でやったんかそれ!
ちゅーかたいちょ、って、お前!
目の前のイヅルのおめめは普段の鋭さを忘れたようにくりくりで、甘えた表情と舌っ足らずな口調も手伝って、なんちゅうか、幼児退行でもしたんやないかっちゅう変わり振りやった。
今までのは照れ隠しだったんです素直になれなくてゴメンナサイきゃっ云っちゃった★(照)とか云い出しそう。
もう誰やこの子!
一体全体、何でこないな事になったん!と、ぐいぐいと迫るイヅル(らしき生物)を取り敢えず制しながら、ボクは思い付く可能性を指折り数えてみる。

一、あんまり実りない恋を続けた余り、ボクの妄想が幻覚になった。
二、頭打つか悪いもん食うたか酔ったか何やらしてイヅルがおかしなった。
三、イヅルは正気でこないなことをしよる。
四、目の前のはイヅル以外の何か。

………………。
一、二、四が現実的なんやろうけど……三、なぁ。
天地がひっくり返ろうが藍染隊長が眼鏡砕こうが有り得ないと思うとった吉良イヅルのデレ期到来。……まじか。
今までただのツンツン(以下三十個省略)やと決め付けとったけど、この子ツンデレやったんやろか。
普段とのギャップに唖然としとって、今まで言及しとらんかったんやけど、

「ねぇ、たいちょ、いかがですか。ぼくのこと、受け取ってくださいますか?」

このイヅル、めっさかいらしいねん!
その上目使いは反則やろ!
小動物みたいに身体擦り寄せてまでくるし、なんなん、この甘えたさん。
つい恐る恐る手ェ伸ばして、頭撫でてしもた。
取り敢えず払い退けられへん事に安心して、ってうわ!ほわぁて顔を綻ばせよった!
ありえへんぐらいかいらしい。
え、どないすればええのボク、とか一人おたおたしてまう。
うわぁ、なんや、こんなんやったらボクもう、夢でも幻でも鏡花水月でもなんでも……あれ、やっぱこれ妄想?

「キミ、ほんまにイヅル?」

「勿論、あなたさまの吉良イヅルです。」

「は?え!ボクの!?」

まだ告白すらした覚え無いで!

「一目見たときから僕の心は市丸たいちょにふぉおりんらぶのめろめろずっきゅん!要するにあなたさまをお慕い申しております!」

「んえぇッ!?」

「どうかイヅルを受け取って、身も心もあなたのものにして下さい!」

いづるの突然のこくはく!
年上としてそれでよいのか!なんて自尊心の叫びに耳を貸している場合やない。
リボンでふりふりなイヅルが、まだ身体の半分が布団に入ってるボクに乗り掛かってきた。

「えっ、ちょ、いづ、そのっ、ぇ、」

ぱちり、と瞬いて揺れる睫毛一本一本が見える。
要するに死ぬほどドキドキしてる心音が聞かれそうな程の至近距離。
ボクの視界全部が、イヅ、ルで埋まっ、て、
あかんあかん、あかん、やろ、これは!?

「たい、ちょ……。」

けれど、薄く開いてボクを見つめるイヅルの瞳は、熱っぽく蕩けとって。
吐息も、普段白い頬も仄かに色付いとるそれはまるで、いとしいひとに向けるもの。

「……イヅル……。」

ほんまに、ええの?

手を添えた頬は熱うなっとった。
ボクの戸惑いを察したように、イヅルは真っ直ぐにボクを見詰めて、そして、目を閉じる。
僅かにあったボクらの距離が、無うなってく。
吐息に触れて、唇同士が重なった。
殴られた。

「ぎゃあああああああああああ!」

イヅルの絶叫。
そのまんまがばぁって物凄い勢いで起き上がって、その過程でボクの腹が潰された。
ぐええ、とか轢かれた蛙みたいな声が出る。
腹押さえてイヅルを見ると、障子に張り付きながら、今しがた触れ合うた唇を押さえて、全身わななかせとった。

「なななっななぁっ、ななななな!」

心なしか、顔が茹蛸さんみたいなっとる。
というか普段のイヅルや。
流石に此処までテンパっとると普段と云うて良いか分からんけども。
訳がわからない、とでも云いたそにイヅルはボクをガン見しよる。寧ろ、それはボクの台詞や。
成り行きを見守っとったら、滑りの良すぎる障子の音だけ残してイヅルが消えた。(瞬歩使いよった。)

何か色々台無しやな。
いやあ、なんやろね、もう。
ほんましっちゃかめっちゃかで色々よう訳分からん。
だから一言だけ正直な感想。

「……泣いてもええかなあ。」

最早笑てくるけどー。
それから、さっきの感触が頭ン中で自動再生された。
しっかりと殴られた頬だけはやたら熱うなった。
 

「ちょっと、どう云う事だよ!?僕は、その、緊張をほぐす薬を頼んだろう!」
「や、あの、吉良副隊長……落ち着いて下さい。」
「これがっ、落ち着いてられる訳ないだろッ!!」
「結果的に、隊長に誕生祝いを申し上げられたんですから良かったじゃないですか。」
「それどころじゃなかったよ!いやっ、っていうか別に隊長に御祝い申し上げる為に頼んだんじゃないよ!?」
「……副隊長。好い加減素直に成った方が、良いですよ本当。」
「は!?何か云ったかい?」
「いえ、何も。……あ、向こうから市丸隊長がいらっしゃいましたよ。」
「えっ!?」
「おはようさん。」
「おはようございます。市丸隊長チッ。」
「あー、まぁたイヅルに逃げられてもうた……。あと今の舌打ちみたぁなの気のせいやろか?」
「副隊長は近頃一段と瞬歩の技に磨きがかかってらっしゃいますね。」
「最近ろくに目も合わしてくれへん。まさか三席、お前イヅルに変なこと吹き込んでへんよなァ?」
「滅相も御座いません。」
「この前も様子おかしなっ、とった………………し、ほんまどうしたんやろ。」
「御気になるのであれば、本人に直接お聞きなされば宜しいのでは?」
「云うたとこで『別にあなたに心配されても嬉しくなんかないですけど。』なんて、睨まれるに決まっとるもん。」
「………………。」
 
「いけると思ったんですけどねえ。」
「あの状況で手を出さないなんて有り得ないっすよ。俺なら食います。」
「意外にヘタレなんだよなあのひと。」
「まぁ、接吻までいけたのですから良しとしましょうよ。」
「そうですけど。本当に、挟まれる私達の身にもなって欲しいですよ。」
「ええ。息苦しいし、もどかしいったらありゃしない。」
「しかし何でお互いに気付かないんでしょうね。」
「未だに意識し過ぎなんですよ寧ろ。出逢って数年じゃあきかないと云うのに。」
「全く……何年経ったらくっついて下さるんでしょうねあの御二人は。」
 
…………
いちまるたいちょはぴば!(20100910)
しかし迷惑なギンイヅだな。(^p^)
日々頑張る三番隊士の苦労空しくバカップルは空回り続けます。
(20101215.)
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