その夜はとても冷え込んでいて、珍しく残業も無かったため早々に寝床に潜り込んでおりました。
次第に暖まってゆく布団が心地好く、日頃の疲れもあり、僕はすとんに眠りに落ちたのです。
もう、真夜中になった頃でしょうか。
急な寝苦しさに襲われ、寝返りを打とうとしたところで僕は目を覚ましました。
すると、どういう訳か薄闇の中で市丸隊長と目が合いました。
市丸隊長が僕の上にいらっしゃって、今まさに布団に入られようとしていたのでした。
見つめ合うこと十数秒。
久々の質の良い睡眠だったせいか、僕はまどろみを引きずりながら、お尋ねしました。

「どうされました?」

聞けばどうやら、お酒に酔われて部屋を間違えたということらしいのです。

「ああ、だからお顔が赤いのですね。」

蟒蛇の隊長にしては珍しいこともあるものです。
しかし、心なしか呼吸が乱れているようにも見えました。

「もしや風邪をお召しになられたのでは?」

ならばこんなところに居てはなりません。
早く部屋にお戻りになって、あたたかくして寝るべきです、と僕はその旨を伝えました。

「え、廊下は寒い?そうですけれど、隊長のお部屋は隣ではありませんか……布団が冷えてるから嫌?すぐに暖まりますよ……え、ちょ、入らせてって……僕の布団で寝るんですか?え、え、隊長?」




「……で、結局どうしたんだ?」
「そのまま隊長がお眠りになってしまわれて、そのまま僕も寝ちゃいました。」
「……。」
「……。」
「流石に恐れ多くて部屋を出ていこうともしたんですが、隊長が僕を抱きまくら代わりにして寝てらしたものですから。」
「…………。」
「…………。」
「どうしたんですか、二人とも。」
「あの、吉良、お前よく無事だったな。」
「何かされて……ああ、いや変わった事とかなかったか?」
「いえ……ああ、そういえば季節外れですけど虫に食われてしまったみたいです。」
「…………先輩。」
「…………ああ。」

二人の中で、狐の笑みと親友後輩が天秤に掛かり、そして傾いた。

曰く、触らぬ神に祟り無し、と。



(20110630)
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