力無く息を吐き、もう止してくださいと涙混じりに請う。
既に夜明けが近い。
ようやく容赦され四つん這いの恰好から崩れるようにしてイヅルは布団に倒れ込む。
指を動かすのも億劫なほどの倦怠感は事後なら常だった。
 
「体力無いなぁ」
 
そんなイヅルをギンは脆弱だと笑った。
元はと云えば手加減の無いお前のせいだとイヅルが睨みつければギンはさらりと知らん顔をする。
今も何度も奥に出された白濁がどろりと流れ出して背筋を震わせた。
 
(明日も仕事なのに)
 
翌日は決まってギンはけろりとしていてイヅルは体調不良なのだから腹が立つ。
 
「もっと体鍛えなならんよ」
 
「あなたが二度も三度もしつこいからじゃないですか」
 
「やってイヅルがかいらしいのがあかんのやん。あないやらしい顔見たらなんべんやっても飽き足らんわ」
 
「そんな言い訳して。盛りのついた狐じゃあるまいし」
 
悪戯に肌を這う指を払いのけようとしたが、如何せん力が入らない。
無論ギンはそんなか細い抵抗を気にすることもなく指はするすると下降していった。
背骨の尽きる場所に指がたどり着くとイヅルの腰がぴくんと跳ねる
 
「……っ」
 
「あら……ちいと無理させてしもたかな」
 
ぐずぐずと今だに柔らかいそこは難無くギンの指を飲み込む。
押し出された白濁がシーツを汚した。
ギンが苦笑を零す。
 
「体大丈夫か?」
 
声は優しいがその顔に悪気は無い。
 
「心配するならその前に配慮してくださ……ぁっ」
 
挿し込まれた指が内側を探るように動き始めた。
不意を突かれて声が出る。
 
「何を」
 
「やってまだやろう?後処理」
 
「っあ、待っ、ここじゃあ……っ」
 
「湯殿やのうて此処ですんのも新鮮でええなあ」
 
悪趣味極まりないギンの言葉にイヅルは泣きそうな顔をする。
ギンは一端指を引き抜くと俯せのイヅルを転がし己と向かい合う姿勢にさせる。
そして骨の目立つひざ小僧に手をかけた。
 
「ボクがしたるから足開き」
 
「隊長、どうせ湯に行くことになるんですから」
 
「無駄な抵抗しなや」
 
「うあっ」
 
ぐっと膝を抱えられイヅルの両足が左右に大きく開かれた。
先程のように露わになったそこにすかさずギンは長く節くれだった指を挿し込んだ。
中を拡げられ、出されたものを掻き出される感覚。
くちゅりと濡れた卑猥な音。
鼓膜を掠める度にくっと歯を噛む。
イヅルは口と目とを閉ざし出来得る限り反応を返さぬようにして、終わるのをただ待った。
微妙なところを指が掠める。
イヅルの眉根が寄り、シーツを掴む手が強くなった。
無論ギンがそんなイヅルを愉しんでいるのは火を見るより明らかだ。
そうしてしばらくその白い手が一層白んでから、ようやくギンは終わりを告げた。
 
「ん、おしまい」
 
体内から引き抜かれるぬるついた指の感覚に身震いして、イヅルは体の力を抜いた。
 
「は、ぁ」
 
強くつぶった目を開けると薄らぼやけた視界に満足げなギンが映った。
そのまま下に視線を向ける。
 
「…………うわ」
 
足の間にたぐまったシーツは、大量の精子で汚れていた。
イヅルも少なからず己の腹に吐き出したが、ギンが出したそれの比ではない。
それらが全てが自分の中に出されていた。
その事実はイヅルにはそこはかとなく背徳的に感じられる。
 
(僕がおんなだったら絶対妊娠してる……有り得ないけれど)
 
外に出された精液は、体内に戻りたいと云うかのように未練がましく糸を引いていた。
ふ、と目を上げればギンもその様子を眺めていた。
 
「た、」
 
伸ばされた指が糸を断つ。
そしてギンが奇妙な事を云った。
 
「イヅルは、なかなか稚児孕まんなァ」
 
「は?」
 
「こんだけようさん出したよし、ひとりくらいもう孕んでもええと思うんやけど。イヅは妊娠しにくい体質かも知らんね」
 
さらりとギンが口から出たそれ。
いつもの冗談の類なら長年傍に居るイヅルは声音で判断できる。
そのイヅルが思うに今のギンな言葉はそのような調子ではなく、れっきとした普通の会話。
何よりそう云って慈しむように腹を撫でる手は嘘でも冗談でも無い。
 
「隊、長?何をおっしゃっておられるのですか。ぼくは」
 
「ふふ、せやけど頑張りがいあるわあ。明日もようさん愛したるかんな。なかなか孕まんとイヅルが気に病むこと無いんやで」
 
ギンは何処か恍惚とさえしている。
滔々と語られる言葉を聞きながらイヅルは顔色失せるのが自分でも分かった。
 
「ぼくが……ぼくがなにを孕むと?」
 
撫でさする薄い腹をうっとりと見下ろして、ギンは何も答えない。
 
 

 
有り得るはずないのに。

 
「っぐ……げほっ、げほ……っおぇ…………っ」
 
その翌日から突然の吐き気が何度もイヅルを襲った。
一日に数回は厠に駆け込むようになり、それに伴って食欲も減退した。
夢見も最悪になった。
心当たりはない。
けれど込み上げる吐き気が身体を苛む度、胃の中身をぶちまける度に脳裏を過ぎる。
夢に現れるのは常に同じだった。
持ち合わせぬ子宮。
中に出され、糸を引く精子。
居もしない赤子の影。
ちぐはぐなギンの笑顔。
悪阻……有り得ない
 
「大丈夫か?イヅル」
 
涙目でイヅルが顔を上げる。
そこには笑顔で心配するギンが居る。
イヅルが嘔吐する様子を見てギンは喜んだ。
ひどく優しい手に背中をさすられる度に、イヅルは背筋が寒くなるのを感じた。
 
「……っ、はぁ、はぁ……」
 
喉に張り付く胃液の味に辟易し、がくりと膝を着きそうになるのをギンが支えた。
 
「お部屋、行こか」
 
ギンはイヅルを抱え上げ、寝室へと連れて行く。
ギンの腕に揺られながらイヅルは己の腹を見下ろす。
膨らむはずのないそこ。
何かを宿すことのない場所。
 
「……………………」
 
(ぼくはなにを、はらまされた?)
 
そっと布団に下ろされると、そのままギンはイヅルの着物をはだけさせた。
露わになった淡い雪のような肢体にギンは満足そうに目を細める。
くたりと力の抜けたイヅルが見つめる中、ギンはイヅルに覆いかぶさるように布団に膝を着く。
最初は指。
次は手の平。
最後は唇で以て、ギンはイヅルの凹凸の無いなだらかな下腹を愛撫していった。
 
「愛しとる、愛しとるよ、イヅル」
 
静かに、一心不乱に、犬のように、敬意を払うように、それ以外知らないかのように、ギンはイヅルの腹に口づける。
きぬ擦れとギンの微かな息遣いだけが聞こえる。
昼だと云うのに無音に近い部屋。
 
「市丸隊長」
 
「なに」
 
「あなたはなにをぼくに孕ませたのですか」
 
「なにやと思う」
 
「いえ、なにも」
 
「イヅル以外、なんも要らんねや」
 
「ならば」
 
「なん」
 
「どうぞこの腹をお開きになってください」
 
「だぁめ」

 
なにを孕んだ。
いやなにも。
いやいや孕んだ。
どの腹に。
子種を注いだ平らの腹に。
なにを孕むその腹は。
 

それはイヅルとボクの。
 
…………
怪奇小説的な話をギンイヅの日に。
ギンイヅだと妊娠ネタ(気持ち悪い)が好きなことに気付いた。
いづたんならたいちょの子孕めそうだけどねえ(笑)

妄想妊娠なのかそうじゃないのかはご自由にお考えください。
(20111012)
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