鉄錆を吸ってずんと重くなった死覇装だけれど、含まれたそれが一滴として彼のものではないことぐらい知っている。
接近戦こそが彼の本領。
それこそ返り血を浴びずにはいられないほどに。
血どころか声さえ届かぬほどの遠距離を専門とするギンとはまったくの真逆である。
まるでイヅルは自分と対であるかのようにぴったりと反対で、ギンはそれを運命のように気に入っている。
戦う彼の怜悧な横顔は好ましい。
だけれど、その後血に塗れた彼を見ると決まってかなしくなった。
たまらなくなって汚れるなと無茶を言ったことがある。
冗談と苦笑すれば良いものを、それではあなたを守れませんとイヅルらしく生真面目な顔で返された。
困ったことに、そんなところも好ましい。
お待たせいたしました、と汚れ一つないギンに濡れたイヅルがかしずいた。
揺れる前髪からぴたぴたと、地面に滴る。
 
「こらまたよう浴びたもんやな」
 
陽だまりの髪が台無しだ。
折角の銀色の対をした髪が。
 
「汚れるなてボクいうたのに」
「今回の標的は巨大虚の上、複数でありましたので。何卒御容赦ください」
「躱す気もなかったやろ」
「汚れなどいちいち気にしていては戦えませんから」
「可愛くないくちや」
 
だから塞いでやった。
屈んだ拍子に羽織の端がぴちゃりと音を立てたが気付かないふりをした。
怪我などしてないはずなのにイヅルの口は血の味がする。
ギンのこころがつきんと痛む。
 
「イヅル」
 
じわじわとイヅルを蝕む赤色がまるで死のようだと思うのだ。
だって血まみれのかれはこんなにも儚くていとおしい。
 
「死なんでな」
「死ねませんよ」
 
ギンの精一杯のことばなのに、イヅルは皮肉に笑っている。
 
「あなたみたいなひとを遺して、死ねるものか」
 
 
かわいくないくちはそう笑う。

(2013.01.02)
 
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